※所属名は取材当時
スパコンの製造過程では、いろいろな負荷を本体に加える試験が行われる。MITANIが担当したのは、その負荷によって生じるCPU(中央演算処理装置)の放熱を冷却するための設備・システムの開発である。
CPUの発熱量は一般的な「炉」に相当するほどの熱量である。また、運転条件や負荷量を変えるたびに変化する熱量に対し、迅速かつきめ細やかに対応できる設備が求められる。当然、技術難易度は高い。「相当苦労しました」と、Sは先代機のプロジェクトを振り返る。Sは当時、協力会社の職人さんたちに工事を指示し、現場を管理する施工管理を部下とともに担当した。
MITANIはこのプロジェクトをなんとか成功させた。お客様からの評価は高く「次世代機をつくるときにも、ぜひ、MITANIさんにお願いしよう」と言っていただけた。
新スパコンプロジェクトに対する国による中間評価を経て、製造段階への移行検討が本格的に動き出したのは、2018年秋のことだった。
その約1年前、お客様からの依頼を受けて、営業のTDと設計のNは設計案と概算のお見積りを提出した。「新スパコンの発熱量などの条件は、先代機と大差ないはず」「冷却システムは当時のものをアレンジして使えるのでは」。そんなお客様の言葉をもとに、先代機をベースにご提案した。
しかし、徐々にみえてきた新スパコンの実際の稼働条件は、当初の見込みとは全く異なるものだったのだ。
制御すべき発熱量は、最初の想定と比較して最大値は4倍近く、最小値は1/10以下に。「単純に最大値に合わせれば良いというものではありません(N)」。最大値に対する出力が大きい装置ほど、小さな値への対応が逆に難しくなることを、MITANIはこれまでの経験で知っていた。そのため、適正な熱量の範囲を見定めなければならなかった。Nはシミュレーションを行い、値を探っていく。
同時にNは設計にも着手。当時、先代機に関わっていた設計・施工・メンテナンスそれぞれのエンジニアたちにヒアリングを重ねた。現在は他部署で異なる業務にあたっているメンバーも含め、皆が時間を捻出し、新しい解を得ようと当時の記憶を辿って知恵を出し合ってくれた。
他にもさまざまな条件が先代機とは大きく異なる中で、「今ある先代機の冷却システムをアレンジして再利用したい」というお客様のご要望は変わらなかった。
これに、苦言を呈したのは施工部門を率いるWである。「仕様が全く違うシステムを無理やり統合しようとすると複雑になり、品質面、運営面で問題が生じてしまうのは目に見えていました」。失敗が許されない国家プロジェクトだからこそ、たとえお客様からのご要望があっても、エンジニアとして妥協してはいけない。先代機用の設備とは別の、独立した冷却システムが必須だということは、施工チームの総意であった。
TD、Nは、この意見を受けて、提案書や見積書を作成し直した。その結果、新たなお見積りは当初の1.5倍に。「それを見たお客様は、到底納得できないといったご様子でした」と、TDは苦笑いとともに当時を振り返る。
だが、TD、Nはひるまなかった。お客様のご要望の背景や真意をくみとりつつ、Nの算出した700パターンにもおよぶシミュレーション結果と、何案も用意した図面をお見せしながら、MITANIの総意として「これが最適なプランです」と提案し、見積金額が増加してしまった理由をご説明した。お客様ご自身が全身全霊で取り組まれている国家プロジェクトだからこそ、ご依頼を受ける私たちも妥協してはいけないのだという思いは、TDもNも同じだった。
そんなMITANIの熱い思いがお客様の心を動かした。プロジェクト開始から数ヶ月後、ついに基本的な仕様と予算が確定したのだ。
2019年3月、工事開始。しかし、課題は山積みであった。
まず、冷却用の水を送る配管の長さは、先代機の倍・総長250mあった。設置する場所は高所かつ、建物の外壁沿いだったため、納入や据付けだけでも一苦労だ。施工管理を担うKは、職人さんの現場での負担を少なくするため、現場搬入前に加工・準備が行えるよう厳密に作業工程を組んでいった。
また、お客様の施設は崖の近くにあった。崖を避けて配管する必要があり、そもそも作業用の足場をつくるのが難しい。「幸い、MITANIは3Dスキャナを使っています(K)」。危険を冒して現場で実測することなく、カメラで測量できる。精度も高い。「まるでゲームを操作するように、画面上で備品や装置の搬出入を事前にシミュレートできます」とKは言う。MITANIは他にも、BIM※やドローンの活用など業界の一歩先を行く先進的な取組みを多数行っている。
TSは電気工事の施工管理を担当、また、一部、配管設備の現場も監督した。TSは電気設備のベテランだったが、MITANIに転職したばかりで配管の施工管理は初めて。「Kや先輩たちに逐一確認していました(TS)」。そして、これこそTSの転職理由の一つだった。「以前の会社では一人で施工管理を行うことがほとんど。以前、別の現場で一緒になったMITANIの社員たちは、ここぞという時には必ず互いにフォローし合っていました」。そんな、チームワークで行う仕事に魅力を感じて、TSは転職を決めたのだ。
他にも山はいくつかあった。しかし、Sたち先代機の冷却設備を施工したメンバーにも何度も助けられ、慎重にプロジェクトを進めた結果、大きなトラブルは起きなかった。
工事終了は2019年6月。MITANIが開発した装置を活用して数々の試験を経て、A社様から“最新のスパコン”が出荷されたのは、2019年12月のことだ。
Wは、出荷の日にたまたまA社様を訪問していた。驚くほど多くの報道陣が集まっているのを見て、「無事にこの日を迎えられてよかった」とこみ上げてくるものがあった。
「先代機での実績があったからこそ受注できたわけですが、当時の施工と比較されることにもなる。プレッシャーはありました」と、Kは言う。しかし、最終的には、納期にも余裕を持って納品できた。「達成感は大きいです(K)」。「A社様からの評価は、ありがたいことに今回も高かった」とTD。「それに、『お客様のご要望とは違うけど、この設備はこうあるべきなんです』という私たちのご提案と、その根拠を認めていただけたことは大きいです。新たな信頼も生まれました」。スパコンとは別の案件についても、新たにお引き合いをいただいている。
Wは振り返る。「MITANIの根本には、チームワークがある。今回のプロジェクトは、営業、設計、施工それぞれのメンバーが部署の垣根を越えて思いを一つにしたからこそ、さらには腹を割った会話を通してお客様と一体感を醸成できたからこそ、成功できたのだと思います。各々が知恵と技術を持ち寄り、お客様にとっての最適を追求する、そんなMITANIの社風や良さを再確認できた案件でしたね」。
三谷産業で働くことに
興味ありますか?
もっとMITANIの
プロジェクトを知りたい方へ