※所属名は取材当時
ワイヤーハーネスという、自動車内部に張り巡らされている電線。それらを束ね、固定するのがコネクターホルダーだ。そのコネクターホルダー本体と、蓋とをつなぐヒンジ※が、電線を組み上げる際に割れてしまうという。金型を改造しても、成形条件を変更してもダメ。普通、この2つを見直せば90%は解決するのに……。そんな会話を聞いていて、Tは漠然と「材料の『分子配向』じゃないかな」と思った。「私は、大学院で材料科学を学んでいたんです」。プラスチックを特定の方向に引っ張ったり、力を加えると、分子がその方向に配列する。この状態を「配向している状態」という。分子が配向していると、配向方向に対して垂直方向と平行方向では異なる物性を示す。配向方向と垂直方向なら強度は弱くなるが、逆に、平行方向では強くなる――。「この特性を応用して、ヒンジの最適形状を導き出せないかな、と」。漠然とした思いつきだった。「あのー、すみません」。Tはついに背後のドアをノックして、会話に割り込んだ。中にいた困り顔の営業担当と、Tの上司、二人分の視線がTに注がれる。そこで、分子配向の説明をしてみたところ「T、そのアイデアで行ってみよう!」となった。いつの間にか、Tはプロジェクトの一員となっていた。
Tは、早速、自分が在籍していた大学院の教授に連絡を取った。「会社に入っても、何かあったら頼ってきてほしい」と言ってくれた恩師だ。Tが状況を説明すると、快く迎え入れてくださった。懐かしい研究室で教授の見解を聞きながら、ヒンジの形状変更前と、最適形状の比較・評価を、研究設備を借りて実施した。樹脂・エレクトロニクス事業部のメンバーは、Tのように、それぞれの自身の出身に即した得意分野とネットワークを持っている。「その知見を活かして業務を行うことはもちろん、このときみたいに、母校や研究機関と連携することもあります」。材料、金型、成形…など、各々の分野でその道のエキスパートたちが知恵を出し合い、さらに、ベトナムの量産部隊ともメールやTV会議システムを通じて連携し、製品開発やお客さまの課題解決に当たっているのだ。母校で行った検証結果を受け、Tは最適な成形条件を追究。加えて材料変更や金型構造の最適化を行うことで、ベストのヒンジ形状を導き出した。さらに、それまで評価できていなかったヒンジの強度を、数値で定量的に評価することにも成功する。
Tの気付きが製品不具合の解消につながったことはもちろんだが、お客様は、ヒンジ強度の数値評価に強い興味をお持ちになった。「これまで、ヒンジの強度評価は定性的な検証がほとんどで、ここまで精緻に定量的な評価が行われたのは、初めてだったんです」。お客様から「ぜひ、我が社で、今回の事例について講義をしてほしい」とお願いされる。Tの上司がお客様の設計開発部署で講義を行うことになり、ヒンジ割れのメカニズムと最適ヒンジ形状について解説し、ご提案した。それだけにとどまらない。なんと、MITANIは、自分たち同様、自動車部品を製造している競合他社への品質改善支援を依頼されたのだ。驚かれるかもしれないが、MITANIはこの依頼をお受けする!本当にそれがお客様のためになることだと判断したならば、ライバルを助けることもよしとするのは、とてもMITANIらしい。Tを始めとするプロジェクトメンバーは、製造が行われているトルコ工場まで出向き、改善活動を実施した。改善前は85%~35%生じていた製品の不良を、5%~0%にすることに成功。自社内での改善活動に加えて、お客様を前にした講義、競合他社への支援活動、そして、それまで困難とされた製品強度の定量評価によって、Tたちは、ヒンジの良品条件を確立した。
こうした活動を評価していただき、MITANIからの提案をきっかけに、お客様は自社の標準設計を変更されたのだった。「現在、お客様が扱っていらっしゃる製品のうち、ヒンジ付きの新規部品にはすべて、MITANIが開発した形状が採用されているということです」。今のところ、これを成し得た競合他社はいない。また、トルコでの改善活動は、その部品を搭載する世界戦略車の生産に影響を与えるような危機を回避できた、という成果をもたらした。つまり、Tたちは、MITANIの「お客様のお客様」である自動車メーカーをお助けするような仕事ができたのだ。この実績が認められ、2014年、MITANIは新たにリレーボックスの受注に成功。当社100%子会社であるAureole unit-Devices Manufacturing Service Inc.(ADMS社)が、プリント基板と成形品が一体となったユニット製品の提案を行うなど、そのビジネスは大きく広がっている。
このプロジェクトには、いろいろな側面がある。例えば、製品不具合の原因が分からない、というピンチからスタートしながらも、逆にお客様の信頼を獲得し、ビジネスを広げたこと。また、プロジェクトメンバーが自分のバックボーンを活かしながら、各々の技術力をかけ合わせて課題を解決したこと。そして、MITANIの技術をきっかけに、お客様のビジネスに良い変化が生まれ、「お客様のお客様」のお力にもなれたこと――そのどれもが、実に、MITANIらしい。
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